バロン・ルヌワール氏を迎えて
富永惣ー
バロン・ルヌワール氏は日本を心から愛し本当に日本人を理解しているフランスの画家である。生来温情の人で会をつくれば会のために、友人にあえば友人のために献身的につくすという情熱の芸術家である。
フランスの サロン・ド一トンヌの会員としてすでに旧いが、単なる会員ではなくてこの団体のために心をこめて尽力した功績は決して少なくない。古い歴史をもつこの団体がとかく古きに沈み易いのを憂いて、1961年抽象美術の部屋を開設して新鮮な気風をひき立てたのも、バロン・ルヌワール氏であったし、その他イヤパー(国際美術家連盟)の書記長をつとめ、労を惜しむことなく懇切な世話をつくされることは万人のひとしく認めるところである。
来日は今回で二度目であったかと思うがその都度日本の自然を愛してはその中から深い感動を受けとって自己の芸術の内容を豊かにしてゆくのである。また日本の古来の芸術の美しさには、いちいちこまやかな共感を抱いて限りない敬意を片時も忘れない。したがって、いつとなくルヌワール氏の芸術創造の中には、日本の香気がしんみりとふくまれていったようである。
氏の柔和な感性は、日本の美しさに触れて自然にその滋養を吸収していったとも思える。 ともかくフランス的感覚と日本的美の感性とがどのように接し、どのように結んでどのように新しい芽をふいてゆくかわれわれも興味をもっている。今度の展覧会がとくに日本で催され、その成果を身近かに見ることは大変嬉しいことである。遠来の客を迎え、その新しい仕事をゆっくり見ていただきたいと思っている。